オレは走って向かう事にした。
ヨハンはタクシーで向かっているに違いない。
電車に乗ればファンに気付かれてしまうし、目撃者を複数作る事になる。
この時間帯、R246は渋滞している。
2qくらいなら走った方が早い。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

大徳寺先生はマンションの二階に住んでいる。
目的地へ辿り着いたオレは、階段を駆け上って先生のドアを叩いた。

「先生!大徳寺先生!!」

オレの読みは当たっているのか・・・?
先生は無事なのか・・・?
先生の顔を見るまでは、気が気でない。

『はいですにゃ〜?どなたさま?』

先生の声。
無事だったか!

「オレ、十代だけど・・・」
「早かったのにゃ〜、十代くん。ヨハン君、まだ来てないですにゃ」

間に合ったか。
とりあえずオレは先生の部屋へ上がらせてもらい、ヨハンを待つ事にした。
渋滞に巻き込まれたか・・・。
それともオレの読みが外れているのか・・・。
オレが焦れ始めてきた、その時。
インターホンが鳴り響く。

『大徳寺先生。オレ、オレ!』

来た・・・!
オレの読みは当たっていた。
ヨハンは大徳寺先生を殺す気で来たんだ。

「先生、ドアチェーンをかけたままで様子を見ながらドアを開けて。応対は普段通りで構わないから」

オレは先生に小声で指示を出した。
先生は戸惑いながらも従ってくれた。

「あ〜、ヨハン君?今、開けるにゃ」




ズガンッ!!

ビィ・・・・ィィ・・ン・・・・・・




「ヨハン君・・・?」

間違いない。
ヨハンは殺る気で訪れている。
ドアをいきなり開けるなんて、普段のヨハンなら、ありえない行動だ。

「なんだよ、先生・・・。ドアチェーンなんかしちゃって。オレだって言ってるでしょ」
「う、うん・・・ごめん。今、外すから・・・」

先生がオレへと振り返る。
不可解なオレの指示に困惑しているのだろう。
オレは先生を部屋の奥へ引っ込ませ、ドアチェーンを自ら外して玄関を開けた。

「やっぱり先を越されちゃったか・・・」
「ヨハン・・・。その拳銃で、何をする気だ?」

玄関を開けると、ヨハンは既に拳銃を構えていた。

「決まってるだろ。十代を惑わす邪魔者をオレが始末するのさ」
「ヨハン君・・・?」


っ・・・!


部屋の奥から先生が覗き出してしまった。


危ない!!


「先生!出てくるな!!」

わずかに顔を覗かせた先生に向け、ヨハンが迷わず引き金を引く。

「にゃぁッ!」
「ヨハン!止めろ!!」

オレはヨハンに飛び掛かり、制した。
揉み合いながら、抵抗するヨハン。
拳銃を抑えつけ、これ以上ヨハンには撃たせまいとするオレ。

「にゃぁぁぁぁぁぁ・・・・・・。な、何の真似にゃ、ヨハン君っ」
「オレと十代の新世界の邪魔者を始末してるだけだよ。先生」

ヨハンは先生を狙うのを止める気配がない。
揉み合いながら、元のヨハンに戻るよう説得をする。

「ヨハン!目を覚ませ!!止めてくれ!」
「何言ってるんだよ、十代。殺人こそ最大の快楽じゃないか。十代だってしてる事だろう」

ヨハンの耳に、オレの願いは届かない。
そのまま押し問答を繰り返していると、ヨハンが拘束を振り解いて呟き出す。

「そうか。十代は先生に惑わされてるだけだと思っていたけど、まだこの美しさに気付いていないんだな」

ヨハンは焦点の定まらない目付きで呟き続ける。

「頭を撃ち抜かれて、血飛沫をあげる・・・白目をむき、断末魔を叫び・・・鮮血が迸るごとに、全ての苦しみから開放される・・・。殺人こそが快楽・・・」

普通じゃない・・・。
明らかに正気のヨハンではない。

「何言ってるんだ、ヨハン?」

思わずヨハンに問い掛けると、ヨハンはオレを見つめて静かに答えてきた。

「十代・・・。学生の頃から、十代だけはオレの眼を見ても変わらずにいたよな。ハハッ」

ヨハンの眼を・・・?
何の事だ・・・。

「だからこそ、十代をオレだけの物にしたい。この快楽を二人で味わおう」

ヨハンの呟く言葉の意味を考えている隙に、そう言い残し、ヨハンは走って去ってしまった。
オレはすぐに後を追おうとしたが、足にしがみ付いてくる者がいた。

「じゅ、じゅ・・・じゅっ十代くん〜。これは・・・、これは・・・、ドッキリ企画か何かなんでしょう?ね、ね、ねぇ!」

オレの足元に腰を抜かした先生が抱き付いていて動けない。

「ねぇ、ドッキリって言ってくださいにゃ・・・。ドッキリだって。十代くん・・・!」


・・・ッ。


オレは縋りつく先生を振り切って、ヨハンを追い駆けこの部屋を飛び出した。
ヨハンが・・・ヨハンが狙っているのは誰なんだ!?
誰に連絡すれば良いだろう?



丸藤亮
大徳寺先生
ヨハン・アンデルセン
丸藤翔
万丈目準
天上院吹雪
ユベル・アンデルセン